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とある魔法士の軌跡(8)

「‥‥さて、あとは一宮さんの部屋だけですね」

あれからおよそ三、四十分ほどだろうか。拓夢は彼女から寮内の案内、そして説明を受けた。個室は備え付けのベッドと机を除いたスペースが六畳、風呂とトイレは別、そして収納は充実。部屋の片付けが苦手で母親に注意されるのが常だった拓夢でも、これならば人並みに片付けが出来そうだ。
一階あたりの住人が、およそ四十人。東寮では三階から十階が女子の部屋に割り当てられており、東寮では偶数階に大浴場が作られているとのことだった。

「しっかし大した金の使い方だな、国民の税金湯水のように使ってんだろ?」

「そうみたいですね。‥‥いくら私たち学院生が有事のときに鉄砲玉になるとは言っても国民の皆様に感謝する気持ちを忘れてはいけません」

彼女の新名な面持ちに、思わず身が引き締まる。自分はこれから魔法士としての道を死ぬまで歩むのだ。廊下の窓から見える、所謂『普通』の人たちのように生きることは、もうできない。
召集がかかれば、例えどんな状況であろうと日本のために戦うことを強いられる立場になったのだから。
そしてその道を、東京学院に通う者は自分のような例外を除き自ら選びとったのだ。

「今回は特別に許可を取ったのですが、本来私たちはお互い異性の階には入れません。これを破ってしまうと‥‥」

「破ってしまうと?」

「酷い目に遭う、とお姉ちゃんが言っていました」

そうそう、と彼女は付け足すと、一枚の紙を拓夢に手渡した。その肌は雪のように白く、指は細長い。

「これ、クラスの名簿です。クラスメートの名前と出身地が書かれてますからよかったら是非」

「本当色々と悪いな、助かるよ。俺からも何かできることがありゃいいんだけどな」

彼女はとんでもない、とでも言いたそうに両手をぶんぶんと振ると
「同じクラスの一員になることですし」
とだけ笑顔で返した。

「そうなのか? じゃ、これから一年間宜しく頼むよ。出来ることがあれば手伝うから、何でも言ってくれると助かる」

はい、と頷いた彼女と固く握手を交わすと、拓夢は部屋へ入っていくのだった。
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