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とある魔法士の軌跡(17)

 ――正気か。
 幾ら彼がまだ未熟だとはいえ、それは余りにもハイリスクではないのか。麗は言葉の主を思わず注視した。
 攻めてこないと分かっている相手に対し警戒心を持つ者など居ない。全神経を攻撃に集中できるのだから。しかし先程から態と神経を逆撫でしているような、そんな気もする。彼女とリオンは、一体何を考えているのか。拓夢の眼差しは一層鋭さを増して、苛立ちを募らせていることが窺える。

「馬鹿にするのも大概にしろッ!」

 拓夢の掌から数多の球体が射出され始める。自身の魔力を球状に圧縮させて飛ばす、魔法士の戦闘における基本戦術。彼の場合は轟轟と燃え盛る炎が球体を成している。とはいえそれぞれの大きさは一定しておらず、彼がまだ精神的にも技術的にも未熟であることを、エレは冷静に再確認すると軽快なステップを重ねそれらを全て完全に避け続ける。外れた弾は地に着弾、耳をつんざくような轟音と爆風そして衝撃を発生させる。

「威力は申し分無しだね。でもまずは精神を安定させる練習からさせるべきかな?」

 2人の勝負を見学しながら、リオンは徐ろに呟いた。その表情は実に楽しそうで、悪意などは感じられない。花は彼が何のために拓夢を訪ねたのかを朧げながらに理解したのか、表情を緩めた。

「そんなものですか?まだ1つも当たってませんが」

 拓夢を煽るようにエレは挑発的な言葉を吐き捨てる。人形のように無表情な彼女は、作業のように黙々と拓夢が放つ攻撃を避けていく。その身のこなしは優雅であり、かといって無駄があるわけでも無い。

「……これならどうだ?」

 右手だけでなく、左手も砲身と化した。そして両方の掌から複数の弾を同時に彼女を中心とした左右も含め3点に向けて放った。エレはそれを桁外れの跳躍力で上空へと跳ぶことで躱した――だが。エレと拓夢の視線が合う。彼のしてやったりという表情に、自らが嵌められたことを察する。態と跳ばせたのだと。

「流石にお前も空中じゃ避け様が無えだろ?」

 跳べば翼でもない限り必ず落ちてくる。落下を始める彼女に、拓夢は掌を向けて照準を合わせた。特大の炎球がその手から放たれる。あれほど下に見られていたのだ、彼には手加減するつもりなど微塵も無かった――そして。
 渾身の一撃は、確かにエレに直撃した。凄まじい爆音とともに。拓夢は勝利を確信し拳を握り締めた。
 だが。

「タクム、まだ終わりじゃない。あれぐらいでエレに勝ったと思ったら大間違いさ」

「は?」

「エレはさっきも言ったように魔法を使うことができない……けど、その代わりに特殊な能力を持ってる。彼女を魔法だけで倒そうと思ったら、重戦車並の火力で攻めなければ無理さ」

「……5分、経ちました。攻撃を開始します」

 ――舞い上がった煙の中から彼女は飛び出した。
 その手には小柄な体に見合わない大きな刀を握って。
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とある魔法士の軌跡(16)

「え?」

 麗が素っ頓狂な驚嘆を伴った声をあげ、赤髪の少女の方を思わず見やる。彼女は身長こそ凡そ160cm弱と言ったところではあるものの、腕も脚も細く、腕に関して言えば骨を皮で覆った程度の太さしかない。腰に提げた2本の剣をまともに扱うことが出来るのか、そこから怪しくなってしまう程に華奢。
 そんな麗の視線に気が付いたのか、エレノアールと呼ばれた少女は俯き片手でもう片方の腕を隠すように摩った。

「……にゃろう」

「僕は魔法の扱いに関して言うと学院の中で3本の指に入る。今のキミでは失礼ながら相手にならない。そしてエレ……エレノアールは魔法に明るくない代わりに近接戦闘では大抵の魔法士を一方的に屠れるほどの強さを誇る。まだ魔法に慣れていないキミが与し易いのは彼女だと思っただけさ」

 あくまでも人を食ったような態度を崩さない。その裏には自身への絶対的な自信と彼女に対する絶対的な信頼が垣間見える。一方で拓夢は彼のそんな態度に苛々を募らせていく。

「ねぇ拓夢、止めといた方が良いよ。こんなのぶん回せる娘には思えないけど万が一ってこともあるし」

「黙ってろ花、ここまで馬鹿にされて黙ってられるか」

 心配した花の静止にも応じず、拓夢はぎりと歯噛みして2人の異邦人に鋭い視線を向ける。彼の闘志にも動じることなく、提案者であるリオンは相変わらず笑顔を絶やさない。それどころかこれから勝負する自らの付き人に言葉をかけながらその頭を撫で始める始末。そして彼女は少しだけ口元を緩めてそれを受け入れている。それは殊更に拓夢の神経を逆撫でしていく。

「決まりだね。もう場所は押さえてある、付いて来てほしい」

 リオンの先導の下、拓夢はとある場所へと向かい始める。学内では著名であるらしいリオンとその後ろをぞろぞろと同行する数人の移動に、他の生徒は彼らを注視したり、不思議がって追いかける者まで出始めた。花は呆れたように幼馴染をその後ろから見つめ、溜息をついた。

「あの、六道寺さん……止めさせる事は出来ないのでしょうか」

「あいつはああなっちゃったらもう無理よ。頑固だしね、叔母さんか妹だったら止められるかもしれないけど」


 場所を押さえている、ということは教師には許可を取っていることになる。だが今までまともに実戦的な訓練を受けていない彼が勝負を買うのは明らかに無謀。頭に血が上っている今の彼の表情は険しく、自分では近づくのにさえ勇気が要る。

「まぁ何かあったら彼が割って入るでしょうし、私もそうするつもり。どうにかなるわよ」

「はぁ……」

 そうこうしている内に。ぴたりとリオンの歩みが止まる。
 ――第2練兵場。模擬実戦の時のみ開放される場所だ。

「エレ、分かってるね?」

「はい」

 主の問いに、エレノアールはこくりと頷き肯定の意を示した。そして5mほどの間隔を開けて拓夢と対峙する。そして右手を前に突き出すと手を広げ、彼と視線を合わせた。

「貴方に5分、時間を上げます。その間どうぞ、好きに攻撃してきてください」
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とある魔法士の軌跡(15)

 クラスメートの視線が、一斉に拓夢らを捉える。
 声の主は柔和な表情で其処に立っていた。その立ち居振る舞いは実に優雅で、金色の髪は良く手入れされているのか艶やか、その内一束は額の中心から右目にかかるように流れている。そして彼の隣には、の付き人と思しき女性の姿。彼とは対照的にさながら人形の如く無表情で、何を考えているのか読めない眼差しは一心に拓夢に向けられている。轟轟と燃え盛る炎のように赤い髪は後ろで結われ、またその腰には大小二振りの鞘が差されている。

「俺には外人の知り合いは居ないんだが、何か用でもあるのか?」

 その言葉を耳にするや否や、赤髪の女性は腰に差した武器の柄に手を添える。それと同時に先程までは無機的だった視線には、怒りが含まれていた。

「おっと、聞いた通り中々気難しいね。初めましてタクム、僕はリオン・フォスター。気軽にリオンと呼んでくれ。今日はキミにお願いがあってきたんだけど」

「フォスターって言うと、交換留学で来てるっていう?」

「ご存知だとは嬉しいね、その通りだよ」

 リオンというらしいその青年は絶えず笑顔を振りまいたまま、花の言葉に反応した。しかしその直後、柔らかだったそれは不敵なものへと豹変した。その蒼い瞳は吸い込むように拓夢を捉えて離さない。彼は手を拓夢へと差し伸べ、口を開いた。

「タクム、キミの力が見たいんだ」

「……折角の申し出で悪いんだけどよ、俺は」

「知ってるさ、まだ魔法に関しては素人なんだろう?」

 拓夢の言葉を遮るようにリオンは返した。
 『素人』という表現に決して間違いは無い。しかし彼の挑発的な態度は拓夢の闘争心を煽るには十分であった。

「それは挑発のつもりなのか」

「ははは、キミがそういう風に聞こえたのならそうかもね」

「やったろうじゃねェか、後で吠え面掻くなよ?」

「ありがとう。一つ言っておくとキミの相手をするのは僕じゃない。この子、エレノアール・ウィシャート・フォスター。僕の付き人さ」
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とある魔法士の軌跡(14)

「ふぃ、フィアンセ!?」

「嘘を付くな嘘を!」

 少々調子に乗っている様子の花の頭部に拓夢の鉄拳制裁が飛んだ。
 頭を押さえて涙目で睨んでいる彼女を他所に、拓夢は弁解の言葉を並べる。どうやら彼女は花の言葉を真に受けてしまったのか紅くなった顔は一向に戻る気配がない。
 女難の相でも出ていたのかと拓夢は隠れて溜息を付いた。

「……で、貴女が天嶺麗?先生の妹?」

「は……、はい」

 花の質問に肯定で返した彼女の表情は暗い。さっきまで頬を赤く染めていた人物とは別人のようだ。
 質問した本人もそれに気づかない筈もなく、寧ろ何かを察したかのように麗を指差した。その視線は力強い。
 首を傾げる麗に対して、花ははっきりと言い放った。

「今まで周りがどうだったのかは知らない。けどはっきり言っとく。あたしはあんたが『天嶺』の子だからって特別扱いなんかしないから。模擬実戦で当たろうと容赦なく叩き潰す!良い!?」

「……はっ、はい!此方こそ宜しくお願いします!」

 花の言葉に、今度はぱぁっと表情が明るくなる。心なしかその目は潤んでいるようにも見えた。
 人の心情を察することに長けてはいない彼でも、今のやり取りで麗がどういう思いで今まで生きてきたのか察することはできた。
 彼女には姉がいる。天嶺雪音という姉が。その姉は、常に麗の先を生き、そして歩いている。優秀な姉がいることで麗はきっと周りから特別な目で見られ、比較されてきた筈だ。花の問いに対し浮かない顔をしたのも、『この人からもそういう見方をされるのか』という思いの表れだったのだろう。

「というわけで今からあんたとあたしは友達。よろしくね、麗」

「此方こそ宜しくお願いします、六道寺さん!」

 何が『というわけで』なのかは分からないが、どうやら一つの友情が誕生したらしいので拓夢も何故かうむうむと頷いていた。しかし花がここまでコミュニケーション能力を得ていたのは驚きである。イギリスで一体何があったというのか。
 そんな中、いきなり教室がざわめいた。

「キミが、タクムだね? 」
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とある魔法士の軌跡(13)

「やぁやぁ学級委員長さん、これから半年間お勤め御苦労様です!」

「喧しい」

 図らずもクラスからの注目を集めてしまった拓夢は、あの後質問責めに遭ってしまった。
 人付き合い、特に見知らない人物と会話をするのが不得手な彼からすればそれ自体は逆に有り難かったりするのだが。雪音の話が終わってからは特にやるべきこともなく、今日はそれで放課となった。
 早々と寮に戻って寝てしまおうと鞄を持ったところで、花が茶々を入れてくる。
 イギリスに渡る前までの彼女との変化点はこういうところにまで表れているようだ。

「いやーあんた会わない間にお間抜けキャラになってたのねぇ。笑いを噛み殺すので大変だったんだけど」

「だから喧しいっての。しょうがねぇだろ、苦手なものは苦手なんだよ」

「やだなー未来の夫がこんなお間抜けなんて。あ、そうそう。優莉ちゃんは元気?」

「誰が夫だコラ。おう、そういえば仲良かったな。お前のこと慕ってたし。我が妹ながら出来が良くて助かるくらいだ」

「久しぶりに会いたいな、ね、夏休みに一緒に帰ろうよ」

「そうだな、そうすっか」

「い、一緒に……?」

「ん?」

 花と他愛ない会話を交わしていると、隣の席に座る麗がはっきり分かる程に顔を紅く染め、小刻みに震えている。特に不味い会話をしていたつもりもないので、彼女の反応の理由が分からずに二人して首を傾げていると、彼女は声を張り上げた。

「あ、あの!お二人はどういう関係なんですかっ!?」

 彼女の質問で、拓夢は実感した。
 自分にとって当たり前のことでも、それが全ての他者にとって当てはまりはしないのだということを。
 現に、花と自分は『故郷が同じで幼馴染』だからこそ先程の会話が成り立つのであって、関係を知らない麗が驚いてしまうのも無理はない。当の彼女は、まだ半分は残っている教室で大声を出してしまったことへの羞恥でか縮こまってしまった。

「あぁ悪い、言ってなかったよな。こいつは――」

「拓夢のフィアンセなの、宜しくね?」
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プロフィール

寺田きな粉

Author:寺田きな粉
学生。
ミルキアン兼ラブライバー。
twitter→@wgo_milkian

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